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JSOについて

患者さんと家族のための歯科矯正治療Q&A

一般社団法人 日本歯科矯正専門医学会(JSO)編
協力団体=日本矯正歯科協会(JIO)

はじめに

お子さんの矯正治療をお考えのお父さま、お母さま、 そして、ご自身の歯並びを治療してみようとお考えの方へ

私たち、一般社団法人日本歯科矯正専門医学会(Japanese society of orthodontists=JSO)は、より良い日本の歯科矯正の環境を作っていくために活動していますが、その一環として、2010年から歯科矯正に関する市民公開講座を開催し、2016年現在までに全国10都市において計14回、1600名をこえる一般市民の方に歯科矯正治療の情報を発信しています。その中で、毎回の質問や会場アンケート調査から、現在の矯正治療を取り巻く環境はとても混乱しており、そのおもな原因は、さまざまな情報が氾濫し、正しい情報がきちんと届いていないことにあることがわかりました。

そこで、私たちは外部評価委員とともに「上顎前歯が突出した小児(7歳から11歳)に対する早期矯正治療は有効か?」という診療ガイドラインを作成いたしました。この診療ガイドラインは医療者にとって正しい矯正治療を行う指針となり、患者さんによっても矯正治療を行う際に、適切な意思決定を行うことを助ける目的で、信頼性のある論文から得られた科学的根拠を基に作成されたものです。また、この診療ガイドラインは「Minds」(厚生労働省からの委託を受け、日本医療機能評価機構が運営する医療情報サービス)に対象として選ばれたものであり、日本の歯科矯正に関しては初めて作成された診療ガイドラインです。内容は「上顎前歯が突出した小児に対する早期矯正治療に関する診療ガイドライン」にまとめていますので、どうぞ読んでみて下さい。

また。市民公開講座に寄せられた市民のみなさまの歯科矯正に対する質問をまとめてみたところ、5つの疑問に集約されることがわかりました。
そこで、診療ガイドラインの発表にあたり、下記の歯科矯正における5つの疑問についてのQ&Aを作成しました(さらに今後、一般の方からの質問が多かった事項をまとめたQ&A集を作成し配布する予定です)。
回答内容はいつも市民公開講座で私たちがお答えしているものです。今後、お子さんの歯科矯正治療を検討されているお父さま、お母さま、また、ご自身の矯正治療をお考えの方にお役に立てれば幸いです。

Q.1 いつから始めればいいの?早く始めれば始めるほどいいのでしょうか?

A.1 早ければ早いほうが良いということはありません。

歯科医師との相談の中で決めてゆくことをおすすめします

「いつ始めたらいいの?」という質問に対して、その判断は極めて難しく、さまざまな要素を含んでいることから、簡単にお答えはできません。しかし、少なくとも歯科矯正治療は、何歳になったから始めなくてはいけないというものではありません。まして初めて受診されたときが治療開始のときなどでは決してありません。
実際には、多くの条件を考慮したうえで患者さんと歯科医師が相談しながら決めていくことになります。成長後の好ましい永久歯の歯並びや噛み合わせを目標にして、将来的な成長を予測しながら、現時点で必要なこと、可能なこと、その内容と期間、費用、治療そのもののリスク等を充分に検討したうえで、「いつ始めるのがいいのか」を歯科医師との相談の中で、決めていくことをおすすめします。

早ければ早い方が良いということはありません

また、「早く始めれば始めるほどいい」という考え方は、早期発見、早期治療の考え方と相通じるものがあり、受け入れやすいものです。
しかし歯並びや噛み合わせの不正は遺伝的、先天的に生じる割合が非常に高く、成長とともに生まれもった不正が現れてくることが多く、永久歯に生え変わっていくという発達、発育の過程もともなうことから、早く始めるだけでは対応することができず、かえって治療が長期化する場合があります。
もちろん、早期の歯科矯正治療が有効な患者さんがいることも事実ですが、有効性低い、あるいは有効性がない患者さんもいます。

基本的に永久歯列が完成してからで問題ありません

そのために、早期治療は、検査の結果、有効性が高いと判断されたお子さん、あるいは今とても噛みにくくて困っているお子さん、また、見た目をとても気にしているお子さんだけを対象にして、比較的短期間(1年以内)で行うこともありますが、幼い時期に治療(早期治療)をしたからと言って、必ずしもその後の矯正治療が不要になるわけではありません。
したがって、早ければ、早いほうが良いということはなく、基本的に永久歯列が完成(目安として12歳から13歳くらい)してから治療を行うことで、問題はないと思います。

Q.2 どういうクリニック(医師)を選べばいいのでしょうか?

A.2 矯正歯科専門医にご相談ください。

現在の歯科医師法では、歯科医師であれば誰でも自由に「矯正歯科」の看板(標榜)を出して、治療を行うことが認められています。しかし、歯を動かすことで歯並びや口もとを整え、噛み合わせを正しくする矯正治療は、非常に専門性・特殊性が高い歯科医療です。
どの歯科院で治療を受けても同じように”治る“という保証はありません。まずは、専門的な教育を受けて、研鑽を積んだ矯正歯科専門のクリニック(医師)で治療を受けることをおすすめします。
矯正歯科専門のクリニックを探すときには、通っている一般歯科のクリニックで矯正歯科専門医を紹介してもらうか、一般社団法人日本歯科矯正専門医学会(JSO)、あるいは他団体のホームページに矯正歯科専門医のリストがありますから、そこから通いやすいクリニックを探すのもいいでしょう。
最終的には、矯正歯科専門医をたずね、実際にカウンセリングを受けて詳しく相談してみるのがいちばんです。その際には、次頁のポイントを参考にしてください。

1.きちんとした検査を行い、丁寧な説明をしてくれるか

適切な歯科矯正治療を行うためには、さまざまな資料をもとに適切な診断をおこなわなければなりません。最低限、診断に必要な資料は、「口腔内写真」「顔貌写真」「頭部X千規格写真(セファロ)」「パノラマX線写真」「歯列模型」の5つです。
上記の検査結果を見ながら、どのような状態なのかをきちんと説明をしてくれる歯科医師が良いでしょう。

レントゲン写真(頭部・側面)

矯正専用のレントゲン。
歯、あご、口元の関係などを見ます。

レントゲン写真(パノラマ)

むし歯や歯周病、歯の生え変わりなどを見ます。

顔写真・口腔内写真

顔、歯、口元のバランスなどを見ます。

歯列模型

上下のかみ合わせや歯の並びをいろいろな角度から見ます。

2.しっかりとした治療計画が立てられているか

歯科矯正治療を始めるにあたって、どのくらい費用がかかり、どのような治療方法で、どのくらいの期間をかけて、どのような歯並びにするのか、をきちんと説明してくれる歯科医師がよいでしょう。どのような治療方法が適していて、どのくらいの治療期間がかかるのかは、患者さんによって異なります。

3.メリットとデメリットの両方を説明してくれるか

歯科矯正治療に限らず、メリットしかない治療法はありません。矯正治療は美しい歯並びやきちんとした噛み合わせをつくることができますが、そのためには抜歯が必要となったり、治療期間が長くかかったりすることがあります。患者さんによっては痛みが出たりすることもあります。
患者さんが正しく判断できるように、マイナスの情報(デメリット)もきちんと提示してくれるかどうかも、歯科医師を選ぶポイントになります。

4.実際に治療した例を見せてくれるか

患者さんにとって、矯正治療は、基本的に初めての体験です。不安も多いでしょう。そこで、治療方針が決まったら、自分と同じような患者さんが、どのように治ったか、写真や歯型模型を使って説明してくれる矯正歯科医院を選びましょう。例を出せない歯科医師は要注意です。

Q.3 できれば歯を抜かずに矯正治療をしたいのですが…?

A.3 必ずしも抜かない治療が良い治療ではありません。

「矯正治療に抜歯は必要なのかどうか」を、歯科矯正専門医(2010年当時のJSO会員56名)に臨床経験をもとに回答してもらいました。
「すべての患者さんに非抜歯(歯を抜かず)で治療が可能ですか?」との質問にすべての矯正専門医が「いいえ」と答えています。

非抜歯で矯正治療が可能か?

「永久歯列期の患者さんに対する矯正治療開始にあたり、抜歯が必要と診断した患者さんの割合(2010年)はどのくらいですか?」との質問に対し、8割以上の専門医が、「来院した患者さんのうち6割以上の方に抜歯治療をしています」と答えています。

抜歯が必要と診断した患者さんの割合

一般的には、非抜歯(歯を抜かない)で治療する歯科医師は、歯列の拡大(歯並びを広げる)を行う傾向が多くなります。無理をして歯を抜かない治療を行うと、奥歯が外側に傾いて、噛み合わせが悪くなったり、口の中から前歯が飛び出してしまい、口唇が閉じにくくなることがあります。
逆に、美しい口もとの状態とそれに見合った歯並びを優先すれば、抜歯治療の機会が増えることになります。
歯を抜かずに最善の状態に改善できるならば、抜歯を行う必要はありませんが、すべての患者さんに対して歯を抜かない治療を施すことは、現実的に不可能と言えます。

いずれにしても、歯科矯正治療における抜歯・非抜歯は、治療目標や治療方法に先行してあるのではなく、目指す状態(目標)があって、それにふさわしい治療方法によって決定されるべきものです。きちんとした検査を受けて、ご自身にあった治療を受けてください。

Q.4 子どものうちに拡大矯正治療やマウスピース治療をすれば良くなりますか?

A.4 すべての患者さんが良くなるわけではありません。

拡大矯正治療について

幼い時期に歯並びを広げれば、大人になってからの歯並びや噛み合わせが良くなるわけではありません。

「幼い時期に拡大治療を行えば、あごが広がって大きくなり、将来、歯並びがガタガタにならずにすむ」という考え方から、乳歯列や混合歯列期に拡大を行う歯科医師がいます。
しかし、あごは矯正の力ではほとんど大きくなりません。歯は力を加えると動くことから、一時的には歯列とあごの骨が広がったように見えますが、力を加えることを止めると、歯列は再び以前の状態に戻る傾向があります。
「早い時期にひとまず広げておいて、将来的にダメなら抜歯して治療を行いましょう」という歯科医師もいますが、それはあまりに先行きを見通すことのできない意見です。
現在のところ、「早い時期の拡大治療」に関する有効性を永久歯列期の矯正治療終了後に表かした報告はありません。また、拡大治療は、非抜歯治療と結びついていることが多いことから、歯を抜かない場合のデメリットについても説明を十分に受け、もしもし行う場合は、納得したうえで治療を受けてください。

マウスピース治療について

歯科医師が口の中を目で診ただけで、既製の装置を入れる治療はおすすめできません。

マウスピースによる治療(口の中にいれる取り外しができる装置)は、すべての患者さんに有効とは限りません。特に、口の中を診ただけで、既製の装置を安易に使用する治療はおすすめできません。
何年も使用して、歯並びや噛み合わせに変化がない場合は、使用を指示した歯科医師に、「効果が出ているのか?効果が出ていない場合はなぜか?いつまで使用が必要なのか?」を聞いてみることが必要です。

拡大矯正による治療も、マウスピースによる治療も、「きちんとした検査→診断と治療方針決定」のステップを踏まずに治療を行う歯科クリニックでの受診は、止めたほうが良いでしょう。
マウスピース治療は、上下の前歯が噛むときに接触してしまい、噛みにくいことから、下あごを前に出して噛んでいるような下突咬合(受け口)の人などの限られた患者さんには有効ですが、すべての患者さんに画一的に行う治療ではありません。

Q.5 費用はいくらくらいかかりますか?
早い時期に始めたほうが安くすむと言われましたが…

A.5 矯正治療の費用は自由診療(自費)なので、一律ではありませんが、一般的な相場はあります。
また、早い時期に始めたほうが、必ずしも安くすむわけではありません。

矯正治療の費用に関して、現在は唇顎口蓋裂などの先天性疾患に起因する咬合異常や外科手術を必要とする顎変形症の場合を除いては、健康保険を適用することができません。したがって、歯科矯正治療は基本的に自由診療となります。
具体的な費用については、治療の難易度、治療期間、治療方法によって異なります。また、歯科院がある地域によっても異なり、一般的に地価やテナント料が高い都市部のほうが高額になる傾向があります。参考として、一般的な費用をご紹介いたします。

矯正治療に必要な費用(総額)

矯正治療に必要な費用(総額)
約70万~150万円

子どものころの矯正治療(乳歯と永久歯が混在するころ)
約30万~60万円

しかしながら、通常は、治療方針が決定すれば、治療開始前に今後かかる治療費用の全額が提示できます。治療費用の総額を治療開始前に提示できない歯科医師は、治療方針や治療の目標が明確になっていない可能性がありますので、注意してください。支払方法は、各医院で異なりますので、詳しく説明を受けることが大切です。

また、永久歯が生える前の乳歯列や混合歯列期の治療は、永久歯列期になってからの治療に比べて、一般的に定額の場合が多いことから、早期の矯正治療が有効な患者さんにとっては、費用が安くすむこともあります。しかしながら、早期の治療だけですべての治療が終了する場合が少ないことから、一概に安いとは言えません。

Q.番外編 矯正治療を受けたら、どんな歯並びになるのでしょうか?

A.歯並びと噛み合わせと口もとが整ったきれいで健康な状態です。

病気やけがをして、「治った」ということは、もとの健康な状態に戻るということです。
ところが、歯並びや噛み合わせに問題がある人が、「治った」という状態はどんな状態でしょう?
もともときれいに並んでいた状態が、なんらかの理由で歯並びが悪くなったならば、もとに戻すという手本があります。ところが、歯並びや噛み合わせの不正は、遺伝的、先天的なものによって決定された、生まれつきの状態であることがほとんどです。

はっきりと原因がわかっている不正咬合は全体の5%程度です。

したがって、歯科矯正治療は、その原因を取り除いてもとに戻す「復元・回復の医療」というよりは、もともと不都合になっている状態を、望ましいと思われる新たなかたちに創りかえる「創造の医療」といえます。
そのため、もとに戻すための手本がないことから、どのような状態に変えるか、きちんとした目標設定が必要になります。矯正治療を始める前には、必ずどのような状態を目標にするかを歯科医師から説明を受けてください。

私たちJSOは、矯正治療の目標を以下のように設定しています。

永久歯列の歯並びにおいて

① きれいに整った歯並び
② あごと調和したきちんとした噛み合わせ
③ きれいな口もと

歯並びと噛み合わせの改善例

治療開始年齢:13歳0ヶ月
終了時:15歳3ヶ月
治療期間:2年3ヶ月
上左右第一小臼歯抜歯
下左右第二小臼歯抜歯

口もとの改善例

初診時年齢:9歳9ヶ月
治療開始時年齢:11歳3ヶ月
終了時:13歳6ヶ月
治療期間:24ヶ月
上下左右第一小臼歯抜歯 ※歯並びの写真(上)と口元の写真(下)は別人です。

【JSOのご紹介】JSOの概略、理念や定期的に開催するJSO市民公開講座をご紹介します。