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アポロニア21 臨床駅伝 こんな患者さんが来たら?

廣島 邦泰

執筆:廣島 邦泰

三重県 伊賀市 アイウエオ矯正歯科医院

アイウエオ矯正歯科医院の医院情報

歯を抜かずに矯正治療を行ったが、 前歯と口元が出ているので治してほしい

  • 36歳3カ月、女性
  • 初診:2015年5月22日
  • 主訴:上下前歯と口元の突出、顎関節の違和感、頭痛や目まい等の不定愁訴で、セカンドオピニオンを求め来院
  • 萌出歯:
  • 現症:アングルⅠ級の臼歯関係であるが、上下顎切歯の唇側傾斜と口唇の突出感を認めた。前後左右に拡大された歯列弓とわずかな叢生。上下顎両側第2大臼歯は遠心傾斜し、顎関節にクリックを認めた
  • 既往歴:矯正治療も行っている一般歯科で、叢生の改善のため非抜歯で2年間矯正治療(上下顎ブラケット)を受けた
アングルⅠ級の臼歯関係であるが、上下顎切歯の唇側傾斜と口唇の突出感を認めた。前後左右に拡大された歯列弓とわずかな叢生。上下顎両側第2大臼歯は遠心傾斜し、顎関節にクリックを認めた

はじめに

転医とは、それまで通院していた医院を変更することをいうが、矯正治療における転医には、転居による場合だけでなく、通院先の医院とのトラブルによるものもある。後者の場合、患者さんは不安と同時に不信感も抱い ていることが多く、受け入れる側にも慎重な対応が求められる。

今回報告する症例は、以前かかっていた歯科医院で“非抜歯”にて歯列拡大矯正をした結果、前歯が前突し、口元の突出感を主訴にセカンドオピニオンを求めて来院し、“抜歯” して治療した転医症例である。

経緯

某一般歯科から矯正治療も行っている別の一般歯科を紹介され、叢生の改善のため非抜歯での矯正治療(上下顎マルチブラケット)を2年間受けた結果、口が閉じにくくなった。
治療に対する疑問を伝えたところ、全て「後で微調整します」と言われたが、そのまま保定になった。顎関節の違和感や頭痛、目まいが続き、不信に思ってセカンドオピニオンを求め、当院のホームページを見て受診した。

前医で受け取った資料(2013年3月11日撮影)

1顔面口腔内写真
採得時年齢:34歳0か月
上下の顎に著しい叢生歯列を認めた。

2口腔内X線写真

診断・治療方針

両突歯列、叢生歯列弓。前方側方に拡大された上下顎歯列、上下顎切歯の唇側傾斜による口唇の突出感を改善し良好なプロファイルを獲得すること、大臼歯の整直を行い咬合を安定させることを目的に、上下顎両側第1小 臼歯を抜去し、スタンダードエッジワイズ装置にて再治療を行うこととした。

初診時(2015年6月23日撮影)

3顔面口腔内写真
採得時年齢:36歳3か月
臼歯関係アングルⅠ級。上下顎切歯の唇側傾斜と口唇の突出感、前後左右に拡大された歯列弓とわずかな叢生を認めた。上下顎両側第2大臼歯は遠心傾斜し、顎関節にクリックを認めた。

4側面セファログラム
上下顎前歯の唇側傾斜と上唇突出、大臼歯の遠心傾斜を認めた。

5口腔内X線写真
上下顎大臼歯の遠心傾斜を認め、アップライトが必要と判断。前歯に歯根吸収を認めた。

6模型による比較
左は前医で受け取った資料(2013年3月11日採得)。右は当院初診時のもの(2015年6月23日採得)。同じワイヤーを添えて比較すると、前医での治療によって切歯が突出したことが分かる。

7レベリング、犬歯遠心移動

8上下顎前歯後退

9仕上げ

治療経過

.018"×.025" スタンダードエッジワイズ装置を装着し、ラウンドワイヤーを用いてレベリングを2カ月間行った後、パワーチェーンにて犬歯遠心移動を4カ月間行った(7 )。続いて上下顎角ワイヤーにVループを組み込み、上下顎前歯後退を8カ月間行った(8)。
その後、上下顎アイディアルアーチを用いて仕上げを12カ月間行った(妊娠出産のため5カ月間休止あり、9)。前歯後退時と再レベリング時に左Ⅱ級ゴム(4カ月)、仕上げ時にU&Dゴム(6カ月)を併用した。

動的治療終了時(2017年11月15日)

10顔面口腔内写真
動的治療期間:2年3カ月(妊娠出産で5カ月間休止)
臼歯関係アングルⅠ級
保定装置:上顎ベッグタイプ、下顎FSWリテーナー

11側面セファログラム
上下顎前歯の後退、プロファイルの改善、大臼歯の整直を行った。

12口腔内X線写真
歯根の平行性は良好。歯根吸収の変化はほとんどない。

治療結果

主訴である上下顎前歯と口元の突出感を改善する目的で、上下顎両側第1小臼歯を抜去し、スタンダードエッジワイズ装置を用いて治療を行った。動的治療期間は2年3カ月(妊娠出産のため5カ月間休止あり)。側面セファログラムを重ね合わせると(13)、A点B点が後退し、上下顎切歯の舌側移動により上唇が後退し、良好なプロファイルが獲得できたことが分かる。

患者さんが顎間ゴムをきちんと掛けてくれていたため順調に治療が進み、臼歯関係アングルⅠ級の緊密な咬合が獲得できた。大臼歯の整直ができ、歯根の平行性は良好で、歯根吸収に変化はなかった。また顎関節の違和感は解消した。患者さんは結果に大変満足している。

考察・まとめ

本症例は、2019年6月23日に開催された第8回JSO学術大会の「転医症例から感じたこと〜患者さんの思い〜」で報告したものである。本症例の問題は、前医での説明不足と曖昧な回答が不信感を増大させたものと考えられる。そこで、当院初診患者のうちセカンドオピニオン件数と転医件数を調査したところ、近年増加傾向で、矯正治療に対して不安や不信感を抱いている患者さんが多いことが分かった。その不安のほとんどが、非抜歯矯正 によって前歯が突出してきたこと、拡大床装置で歯列拡大をしたが前歯が出てきた、あるいは噛めなくなってきた、というものであった。
また、アンケート調査(当院への転医症例患者10人中9人が回答)を行った結果、以下の回答が得られた。

13側面セファログラムの重ね合わせ
黒線は当院初診時、赤線は動的治療終了時のもの。

質問1「患者ファーストの(早期)矯正治療に期待すること、必要なこと」

  • 分かりやすい説明をしてほしい(治療を開始する時期や、今後の見通し、検査結果、メリット・デメリットなど)
  • 正しい情報を発信してほしい(一般歯科と矯正専門の医院の違い。どこの歯科にかかったらいいのか分からない)
  • 適切な治療が受けられる仕組みをつくってほしい(一般歯科と矯正専門歯科の連携、歯科矯正専門医の制度)

質問2「これから矯正治療を受けようとする方に伝えたいこと」

  • 「近いから」「安いから」と安易に医院を決めない方がいい。何軒かの医院で相談を受けること
  • 矯正治療を勧められたら、必ず他の矯正専門医に相談すること
  • おかしいと感じたら、早い段階で専門医へセカンドオピニオンを求めに行くこと

今回報告したような転医症例は、患者さんに負担を強いることが多いが、特に心のケアを慎重に行うことが重要だと強く感じた。

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